2004年1月25日

最年少芥川賞作家、綿矢りさ『蹴りたい背中』

 1月15日に発表された第130回芥川賞(日本文学振興会主催)を受賞した綿矢りさの『蹴りたい背中』(河出書房新社)を読んでみた。綿矢は、1984年2月生まれの19歳で、それまでの最年少記録だった67年の23歳だった丸山健二を抜いて、最年少記録を更新した。京都市出身で、早稲田大学教育学部に在籍中だ。
 単行本が出た昨年8月店頭で、冒頭の「さびしさは鳴る。」という出だしを読んだ。何とも言えない不快感を覚え、その先を読み進む勇気を失い、そのままになっていた。で、受賞ということで再度挑戦した。結論から言えば、読んで良かったとは思う。

 なぜなら、「若い」小説家といっても、そうそうびっくりすることは書いていないという当たり前のことを確認したからだ。逆に極めて主人公が保守的であることの方に驚いた。
 内容は、高校に進学したばかりの主人公(女性)と、モデル出身の女性タレントに没入する同級生(男性)との、交友を描いたもの。新しいクラスに溶け込めない二人の他愛もない出来事をたんたんと描く。文中に、突然主人公の独白を地の文に紛れさせ、文章にリズムを作っている。
 描かれる光景は、高校の部活動、授業、休み時間、昼休み、同級生のマニアックな部屋、女性タレントのライブ、無印良品の店舗くらいで非常にシンプルだ。逆に描かれていないのは、ハッキリとした主人公の家庭や内面。これが無いので、ジメジメした印象を与えないのは素晴らしい。一方、マニアの部屋と家の方は詳しく描かれている。
 更に、読み手に投げつけられる主人公が突然同級生の背中を蹴る、といった奇怪な行動は、確かに分かりにくいものかもしれない。だが、こうした少年少女から老年男女までの「もやもやとした衝動」を描き続けてきたのが、日本の小説ではないだろうか。その上で、深層心理だったり、違った世界を描き続けてきたはずだ。その意味で、この小説は忠実に「日本文学」している。そして、その先を見せて欲しかったが、そのまま終ってしまう。
 それとも、これは単なるはみ出し者二人のラブストーリーで、攻撃的衝動を介したSM的展開を見せるのであろうか。まさかとは思うけれど、あまりに陳腐である。
 綿矢にしてみれば「これでいいのだ」ということかも知れないが、自意識の手前でも向うでも良いから、一歩踏み出して欲しいと思う。文章もうまいし。
 最近良い話題のない早稲田大学としは、入学させても忘れた頃に退学してしまうタレントより、可能性としてはずっと活躍し続ける小説家を在校生として持っていることは大きなメリットであろう。

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