2005年1月11日

小林秀雄の「感想」の感想

 著者によって「封印」されていたベルグソン論「感想」が、第5次『小林秀雄全集』別巻1(2003、新潮社)に収録されている。雑誌「新潮」に1958年から5年がかりで連載されたものの中断してしまった作品だ。本人の「失敗しました」という説明で単行本、それまでの全集には収録されていなかった。が、今回初収録された。手軽に読めるようになったことは、いずれにしても目出度い。
 ところが、通読した感想は「なんじゃこりゃ?」である。専門家が、あれこれ詮索するには面白いテキストであろう。小林らしい前のめりの文体も、特に前半では堪能できる。しかし、中断した、不完全な作品である。確かに本人は、封印というか、改めて公表する必要を感じなかったのだろう。

 母の死をめぐる「蛍」と、水道橋の駅ホームから転落した「童話」から始まる。続く、ベルグソン哲学の紹介、相対性理論から量子力学にいたる現代物理学の歩みは、読み物としてはちゃんと面白い。
 強引に要約するなら、デカルトからアインシュタインへの「実用的=科学」の系譜と、生成を思考する哲学者であるベルグソンと不確定性原理のハイゼンベルクらによる「非実用的=流動性」の系譜を対立させ、後者の重要性を説いている。
 だが、ベルクソンや物理学の紹介を、小林秀雄が「新潮」誌上で開陳する必然性はない。そして、議論に続く「オチ」がないのが本当に残念である。
 きっと、冒頭の蛍や転落をめぐる「不可思議な体験」を、「非科学的だ」として、一蹴してしまう前者の姿勢に異を唱えたかったのであろう。その体験の「感想」を何とか説明しようとして5年かけたのであろう。しかし、展開に無理があるのではなかろうか。本丸は諸学説の紹介ではなかったはずで、このペースで結論部を進めたら、あと5年はかかりそうである。
 とは言え、続きを憶測する楽しみが残った。古い第4次の全集を古本屋で買ったままになっている。近々、手に取ってみようとは思う。

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