フランスの「地下写本」と思想地図
ヨーロッパの人々の中で、キリスト教が占めている心の「位置」というのは、極東の島国からは何とも理解しがたいものである。ところで、あるものを理解するには、それに反対した思想を知ることが、一つの方法だろう。
赤木昭三『フランス近代の反宗教思想』(岩波書店、1993)を読んだ。17世紀末から18世紀初頭にかけてのフランスで「地下出版」された反宗教文書をたどる研究書である。
地下写本は国王の印刷許可が必要だった時代の非合法出版物で、現存が確認されているだけで163種類、840部以上だという。写本が扱う主題は、神、宇宙、霊魂、モラルと社会、聖書、キリスト教などなど。
もちろん、反宗教思想の高まりは、こうした「本」の読み手が増えたことも意味している。理論的研究というより、「政治的ビラ」のようなものだろうか。それが、18世紀の「啓蒙の世紀」を準備したというわけだ。
膨大な内容を整理した上で、コンパクトに内容を紹介している後半が特に楽しい。取り上げられているのは、『軍人哲学者』、『宗教の検討』、『古代人の見解』、『何事モ信ジナイ術』、『トラシュブロスからレウキッペーへの手紙』、『メリエ司祭の覚え書』、『三人の山師論』、『ジョルダーノ・ブルーノ復活』など。理神論から、唯物論、無神論の原型が、非常に分かりやすい言葉で書かれていたことが分かる。
今からみれば当然のことのような思想も、地下で出版されざるをえない時代の緊張感、そして、対照的なその中身の「勢い」。公に出版された「古典」では回りくどく分かりにくかった「思想」の雲が晴れていくようだ。意地悪だけれど、「悪口」は読んでいて楽しいものである。
