山中千尋のジャズ講座と高級スピーカー
東京・吉祥寺のジャズ喫茶「メグ」のスピーカー、アヴァンギャルド。真っ赤なホーンと独特のフォルムが目を引く高級スピーカーである。280万円。それで、MP3に変換された音楽を聴く快楽は、やはりジャズ喫茶でしか味わえない。ピンジャックを変換して繋いでいる。
先日(8日)、山中千尋さんのトークイベント「山中千尋のジャズドリル」(公式サイトの表記による)に行ってきた。お酒の入った気楽なイベントで、演奏とは違う山中さん個人が伝わってくる。強いのである。
開場は19時前、1000円を払って、まずモルツ・ビールをぐびぐび。19:40分ごろ、満員の店内に、鞄を肩、白いセーターにブーツ姿で山中さんが登場。鞄からiPodのヘッドフォンも見える。
今回はPowerBookにため込んだ音源を聴きながら、山中さんがレクチャーする、はずなのだけれど、パソコンが「メグ」のオーディオに繋げず、急きょピンジャック変換アダプタを買いに行く。その間、お店にあったKenny Dorham『Quiet Kenny』(Prestige)を流して、ドラマーを当てるブラインド・ホールド・テスト。ちなみに正解はArthur Tatlor。
何とも間が持たず、店主、寺島靖国さんが「クラシックをやめて、ジャズを始めた理由は?」と質問を投げ掛ける。「人の書いたのを練習するのが嫌だった」と。ピアノのレッスンでも編曲して披露し、先生に怒られたそうである。「いいジャズ・ミュージシャンではないけれど、いいジャズ・リスナーである」で、日本に帰ってくるとジャズ喫茶に入り浸る。
PowerBookとオーディオの接続もできて、早速、レクチャー開始である。最初にかかったのは、Jutta Hippの『At The Hickory House』。大音響で聴いても、決して音は悪くないと思う。
「Dear Old Stockholm」の音の外れ方に、Hippのパーソナルな声があるという解説。続いて「尊敬するミュージシャン」として流した曲を聴きながら、「メンバー4人(p,sax.b.ds)をあてたら私が何でも奢ります」とのこと。正解は出なかったけれど、うなり声をあげないKeith Jarrettで、サックスはジム・ペッパーだそうだ。確かに、最近のKeithとは違った素敵な演奏である。
Hank Mobleyの『Soul Station』と続き、「ピアノは誰でしょう?」と流れたのがBrad Mehldau。「タイム感が優れていて、流石ブラッドさま」だそうである。いつの間にか、グラスのウイスキーを片手に(時折、セーターにこぼしながら)調子の上がる山中さん。で休憩。外で一服して、バーボンをダブルで追加注文。6時以降のミニマム・チャージ1260円をクリアしないといけない。
後半は、「メグ」と山中さんの関係から始まる。お酒を飲んで快調だ。寺島さんもとうとう、「寺チャン」呼ばわりである。初めて「メグ」に来たのは、澤野工房から2枚目のアルバムを出した頃で、その日はウイスキーのボトルを2本、開けてしまったという。その後の記憶は流石にないようだけれども、ちゃんと家に帰ったという。「メグはジャズ喫茶の勝ち組」という「声援」に、寺島店主も「3年前は潰れそうだった」と答える。学生時代入りびたったジャズ喫茶は「メグ」ではなく、「メグ」は恐かったとのこと。
で、ニューヨークでのチップ・マナーの話しは面白かった。チップはお札で払うもので、コインで払うのは「殴られるくらい」失礼だという。コインで払うのは、本当にサービスが悪く、客として怒りを表現する時だけ。山中さんがニューヨークで遭遇した日本人観光客の話しを交える。それと、何らかの理由をつければ、ニューヨークのCDショップでは、買って気に入らなかったCDを返品(交換)できるそうだ。それとMOMA(ニューヨーク近代美術館)は、「自分はアーチストだ」と言い張れば、無料で入れるらしい。本人はDVDを見せて入った。
「彼女は素晴らしい」と披露されたのは、綾戸智絵さんの「テネシー・ワルツ」、といっても、それを更に面白可笑しく物まねする清水ミチコさんバージョン。笑えました。続いて、矢野顕子風のオリジナルで、本人以上にそれらしい弾き語りだ。
続いて、Art Blakey & The Jazz Messengersの『Ugetsu』から「One By One」。Blakeyのグルーブ感を生む、正確ではなく前へ前へと進行するリズムを説明。さらに、Wayne Shorterの演奏とそれをアレンジしたMiles Davisの演奏の違いを比較して、「暖かい曲が、複雑に曲になってしまいました」。続いて「お気に入り、声が好き」と、EGO-WRAPPIN'が流れる。最初に買ったジャズのCDとして、「ベタな」Sarah Vaughan。Sonny Rollinsによる「All The Things You Are」では、1拍目からフレーズを始めないコツを披露。本当にジャズ・レッスンのようになってきた。
「最後は御機嫌で帰っていただこう」とStevie Wonderが流れ、結局終わらず、続いて、Earth Wind & Fire。「ノリノリ」で踊り出すべき音楽が、よく聞こえないと、メグのスピーカーを「最悪」と表する御機嫌な山中さん。買ったCDの悪口(「チラシの裏のような音楽」だそうだ。素晴らしいたとえだ)や、東京Jazz2005の舞台裏、音を聞かず、名前を聞いて「素晴らしい」というのはだめだ、などなど山中節を満喫。イケイケな演奏を披露しているHerbie Hancockのニューヨークでのライブ録音を披露して、「85年以降のHerbieはいい」。
さらにRichard Tee『Live Stuff』やBobby Timmonsを流して、「ジャズ界をサポートしてください」と締めくくった。ちなみに今年、山中さんがセレクションしたコンピレーションCDが出るそうだ。次作のロボットがジャケットの表紙だという。で、21:45。
しばらくして二次会が始まる。ゆるい雰囲気そのままの「メグ」である。もう1杯バーボンのダブルでロック。
上手く見えるカウントの取り方講座が始まる。下から上に手を動かし、2拍目と4拍目でカウントを取る。店内全員で下から上に手が動く。壮観である。実際に参加者にピアノを弾いてもらい、ソロの取り方講座も。シンコペーションを休むコツなど。
ニューヨークでも生活話も楽しい。出会ったミュージシャン(Slide Hampton、Al Foster、Andrew Hill、Eddie Gomezなどなど)や和食を中心に包丁を使わず料理する話しも。
たっぷり楽しませてもらったトーク・イベントだけれど、山中さん本人は、あまり乗り気でなかったようで、「寺島さんに脅された。来年もまたこういう場でお会いできることを願っていません」とのことでした。
寺島さんは、HerbieやKeithを聴いて「ジャズじゃない」と苦々しい表情。ポップスにいたっては、後ろを向いていました。山中さんいわく「音楽嫌いのジャズ好き」。寺島さんとの「掛け合い」は楽しく、辛口(毒舌?)の山中さんも素敵です。
そう言えば、絶対音感はあるけれど、落ちたお金を区別するくらいにしか役に立たず、一方、「絶対時間感」は「あと3分」と言われればちゃんと3分で演奏を終えられるので、役立っているという。ただ、この日、21時半に六本木での友人との待ち合わせを完全に忘れていて、23時過ぎになって、あせっりまくって電話している姿は、「絶対時間感」とは違う「相対的時間感」を感じさせてくれた。
スポーツ中継のように、ジャズの実況アナウンスをやってみたいとのこと。来年は、CDを聴きながら「あ、Herbieのソロ1発目がきまりました!」、なんていう光景が見られるのだろうか。
さて、来週末は演奏を楽しむ番である。
