フォークを聴かずとも楽しいフォーク本
なぎら健壱さんの『日本フォーク私的大全』(ちくま文庫)を読んだ。いわゆる「フォーク」は聴かない。読んでから、試しにiTunes Storeで試聴してみたが、やはり聴く気にならない。
でも本書は面白い。筆者の本職である作品を楽しむことなく、その人のエッセイを楽しむことは楽しい。可能である。
なぎら健壱さんは1952年、東京・木挽町生まれのフォーク歌手。
本書は1970年の中津川フォーク・ジャンボリーに飛び入り出演してデビューした前後から80年代初頭までのフォーク歌手との交友録(?)のようなもの。巻末に1958年から83年までの詳細な「私的年表」や索引まである。
登場するのは高石ともや、岡林信康、五つの赤い風船、高田渡、遠藤賢司、加川良、三上寛、斎藤哲夫、吉田拓郎、武蔵野たんぽぽ団、RCサクセション、泉谷しげる、もんたよしのり、友川かずき、井上陽水、なぎら健壱の各氏(グループ)。後半に登場する人の歌は、同時代で聴いたけれど、すでに「フォーク」というくくりではなかった。「歌謡曲」である。井上陽水さんにいたっては毎日何度も「おげんきですか?」と乗用車の窓から手を振っていた。一時期、声が聞こえないバージョンもあった。
音楽を知らなくとも、登場するその人、その人が個性的で、優れた書き手がそれを描写すれば、「読み物」としてとてもおもしろいものになる。本書の親本は、1995年に刊行された結構売れたらしい。フォークの人気とは全く別に。
そして、フォークというジャンルの特性と、70年代の音楽が今のように「商品化」していなかったためだろう、音楽が、演奏が、歌手が身近にいて、歌い、飲んでいる姿が本当に楽しい。そして、なぎらさんはよく細かいことを覚えているものだ。
メッセージ性をもったフォークから、日常感覚を淡々と歌う方向への変化、ニューミュージックとくくられる音楽へ。70年代の変化を単純に表現するとそういうことになる。それが、いいことがどうかは分からないけれど。
ところで、ちくま文庫、ちくま学芸文庫はなにゆえ、こうも楽しい本を毎月出してくれるのだろうか。嬉しい悲鳴である。だから値段が少々文庫にしては高いことは問わない。ついでに、坂口安吾全集を完結させてくれたらもっと嬉しい。
