山中千尋さんの「ベスト」を草月ホールで
ベスト盤というのは、過去の音源から選択し、再構成した「製品」だ。いくつもの演奏から素敵なものを選ぶから「ベスト」である。

しかし、眼の前で「ベスト盤」に収録されるべき演目を、新しいトリオの演奏で楽しめ、その映像がDVDに収録されるとしたら、字義通りの「ベスト」ではなくとも、嬉しい体験である。23日午後、東京・赤坂の草月ホールで開かれた山中千尋さんの女性だけのトリオによる演奏だ。DVDにむけ、カメラが何台も並ぶ。
もともと3月に予定されていた「ベスト・アルバム」の代わりに、ベストな選曲でDVDを撮ることにしたらしい。澤野工房からリリースされた『Leaning Forward』に入っていない曲が中心だ。いわば、ベストの撮り直し。
8月22日には新作アルバム『Abyss』が、10月には今回のDVDが発売になる。「Abyss」は、千尋(ちひろ)の訳で、千尋(せんじん)の谷など、深い奥底、深遠である。確かにそのまま『千尋』では、神隠しに会いそう。メンバーは、Kendrick Scott(ds)、Vicente Archer(b)だ。
雨も上がって暑い23日、青山1丁目の駅から会場に歩く。山中さんのライブは4月のJZBrat以来。会場は3階まである500人以上のホールだが、満席。
舞台袖や2階にカメラが備え付けられ、外には大きな中継車が止まっている。昨日の桐生での公演も収録され、群馬ローカルで9月15日に放送される。
さて、草月ホールのある草月会館は、草月流、前衛華道だけでなく、前衛芸術の殿堂である。ビデオ・アートの先駆者、ナムジュン・パイクが1978年にピアノとテレビ・モニターを使ったパフォーマンスでも有名。
会館に入るとすぐ勅使河原蒼風が、彫刻家イサム・ノグチに作らせた<花と石と水>の庭「天国」が、3階くらいまでの吹き抜けにそびえる。流れる水の音が印象的で、この季節にはとても涼しげでぴったりだ。
同ホールでは、山中さんも学生時代にアルバイトでピアノを弾いたり、現代音楽の譜めくりをしたとのこと。
定刻を少し過ぎた17時30分過ぎ、真っ赤なワンピースに、赤いヒールの靴で登場。「ツアーの最終日で、沢山カメラがあります。テープは回っていますが、MCは(DVDで)使わないので、(いつものように)ダラダラ話します」。素敵である。
メンバーは、Jennifer Leitham(b)、Allison Miller(ds)。長髪で黒のドレスを着てがっしりしたJenniferと、とんがった短髪で感じの華奢な感じのAllisonは対照的である。
演奏したのは以下の通り。
ファースト
1、Outside By The Swing
2、In A Mellow Tone
3、What A Diff'rence A Day Made
4、Liebesleid
5、Living Without Friday
セカンド
6、A Sand Ship
7、Take Five
8、RTG
9、Antonio's Joke
10、Impulsive
アンコール
11、Yagibushi
少しずつ盛り上がってくる、重量感のある1のイントロから始まる。力強く押していく、完成されたバージョンだ。
ドラマーは素足でペダルを踏む。撮影のためか、山中さんの足にも綺麗に照明が当たっている。
2は、イントロからフレーズをを繰り返すことで躍動感を醸し出す。大きな音で、はっきりとしたベース・ソロが印象的。ピアノも聞き慣れたフレーズを交えながら軽快に力強く進む。
今回のツアーで使われいるキャッチ・フレーズ「全米最強女性トリオ」はプロレス団体のよう、と山中さんは指摘するけれど、結構「文字通り」かもしれない。さらに、演奏全体にビートをぐっちり刻む印象がある。アレンジも細かいところに「芸」を凝らしている。「ベスト」である。
3では、エフェクトを効果的で、緩急、メリハリを利かせた演奏になっている。くっきりと、聴きやすいドラムスもいい。悲しい愛の4では、ベースの腕、指が激しく動き回る一方で、ピアノは、切羽詰まった愛の縺れを右手の高音で効果的にさばく。ご機嫌なドラムスのソロを楽しんだ後は、ラテンで締めくくる。夏にぴったりだ。ファースト最後の5は、グルーブ感というのだろうか、うねるような感じがいい。ピアノは激しすぎ、力が入りすぎたかのようで、ドラマーはドラム・セットに恨みがあるのであろう。うねって、まっすぐに終わる。18:30。
約20分の休憩。
セカンドは黒いワンピースに着替えて登場。ファーストでは、付け睫毛が落ちたらしい。DVDで確認しよう。
6は静かなイントロイから、おとなしく、しっとりとまとめる。7は、ベースがはっきりと弦を叩き、弾き、ピアノ、ドラムスとソロを堪能して終わる。8はガッツある出だしで始まる。ピアノも含め、演奏はどんどんエスカレート。左手でコードをガンガンと印象的に。
大好きな9が、「ベスト」に残ったのが嬉しい。情けないイタリア人のお友達、電話をかけても山中さんにとってもらえないAntonioさんに感謝である。ゆっくりとした、しっとりな出だし。落ち着いた感じだ。ベース・ソロでは太い音が心地良い。ピアノを聴いていると。情けないせいもあるけれど、優しい気持ちになれるし、励まされるような気になる。細かいアレンジの変更にニヤニヤ。
10でも、ベースを軽々と操って、鳴らし切るパワーに感心。ドラムスも叫びながら叩く熱演だ。セカンド終了、19時40分。
アンコールはやはり「八木節」。派手な子守歌のような和風(?)のイントロで、ゴージャズは進化する演奏を楽しんで終了。
ツアーで珍しく太ったそうである。女性だけのトリオであることと関係があるのか分からないけれど、食べまくっているらしい。桐生からバスで東京に夜戻る際、北海道の六花亭・バターサンドを一箱(一人か?)平らげたという。確かにバターサンドは美味しいけれど、一箱は危険である。
4年前、大阪フェニックスホールで、澤野工房が発売したDVDの撮影をライブで見た。その時と同様、客席を空にして、さらに何曲か収録するようだ。10月の発売が楽しみである。
明日は東京TUC。

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