2007年11月18日

犬の話、松浦理英子さんの『犬身』

 怖い話である。猫ではなく、犬のところがミソだろう。一家の秘密を扱うので、「家政婦は見た!」になりがちな展開を、うまいところでコントロールしている。流石である。
 松浦理英子さんの『犬身』(朝日新聞社)は、『裏バージョン』から7年ぶりになる長編小説だ。

 松浦さんは、1958年愛媛生まれの作家で、青山学院大学卒。94年の『親指Pの修業時代』(河出書房新社)は、足の親指がペニス(P)になってしまった女性の話で、当時かなり話題になった。

 本作は、中部地方とおぼしき地方都市が舞台。
 大学時代からの男性友人とミニコミを発行する房恵が人間としては失踪し、地元の陶芸家、梓のところの犬「フサ」になる。房恵は人間と犬との「種同一性障害」なのだ。変身(?)させる謎のバーテンダーがキーパーソン。一方、梓の家庭、両親、兄には問題がいろいろある。

 小説全体に男女の性をめぐるエピソードがちりばめられる。男女のセックス、近親姦などなど。そして、そうした性を乗り越えたところに「犬生」がある。生と死も重要な要素になっている。

 松浦さんは相当の犬好きなのだろうか、匂いや表情の描写がリアルで、犬の匂いが鼻につきそうなくらい。
 もちろん、男性的なペニス(ファルス)によらない性、人間関係を登場人物二人(梓の兄 vs バーテンダー)を対比させることによって、析出させる展開も読んでいて飽きない。ほれぼれするくらい。

 続けて『ナチュラル・ウーマン』(1987、河出書房新社)も読んだ。レズビアン小説である。徹底してペニスは登場しない。人と人がここまでヒリヒリとして関係でいられるのかと驚いてしまう。

 日々、惰性で流れてしまう日常生活の中で、目をみはると言うのか、蒙を啓くというのか、世界が違って見えるようになれるから本を読むのは止められない。

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