2008年5月26日

畳の上で水泳を練習する=音楽本21連発(上)

 「音楽と切り離せない」人生を送っている小泉純一郎さんによると、一般の人は「聴いてよければそれでいいと思っているはずだ」そうなので、かくゆうこの本は何故存在するのかといった初歩的な疑問はさておく。
 芸術、それも音楽や美術といった視聴覚についての「本」は、畳の上で水泳の練習をするような一抹の有用性と大半の無駄が混在している。でも、ほろ酔い(ぐでんぐでんでも)で読む音楽の本が好き。慣れているからか?
 読み終わって積み重なる本から音楽関連を並べてみた。とりあえず21冊。長いので3回にわけて第1回。

 ちなみに、今途中の菊地 成孔『M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究』(エクスアイア マガジン ジャパン)は、大冊で手が痛い。面白いので、いずれ。

1、小泉純一郎『音楽遍歴』(日経プレミアシシリーズ

 とても字が大きく、文章中に「編注」が入るので分かりやすく、読んでいてリズムが切れても、ちゃんとワンフレーズ政治家に相応しい連続性を維持し、遍歴になっていない構成が魅力。さらに「真実のうそ」、「何回か聴くうちに全部好きになった」など、思わず使いたくなるフレーズの宝庫である。
 小泉さんの場合、好き=慣れのようだ。明快!

2、小泉文夫『音楽の根源にあるもの』(平凡社ライブラリー

 筆者の姓は、同じ小泉だか、こちらはちゃんとした民族音楽の第一人者による研究書。
 音楽が個性的で、芸術的なものだという発想はロマン主義をへた「音楽のなれのはて」。日本でも仏教の流入とともに、喜怒哀楽を表現するようになった。もっと「生活と密着した」「本来の健全な音楽」を訴える。
 今は、音楽の不幸の時代なのだろう。

3、田口宏睦『JASRACに告ぐ』(晋遊舎ブラック新書

 都内のピアノバーの老店主が逮捕された事件や、新潟のジャズ喫茶への激しい取り立てなどを軸に音楽著作権の大手管理団体、日本音楽著作権協会(略称、JASRAC)の横暴を暴いている。もうちょっと丁寧に両者、関係者の議論を辿って欲しかった。
 しかし、産業として中途半端にに大きくなりすぎた「音楽業界」で、確かに音楽そのものにとっては「不幸」な状態だ。

4、持田騎一郎『儲かる音楽 損する音楽 人気ラーメン屋のBGMは何でジャズ?』(ソニー・マガジンズ新書

 BGMがレストランの客に購買行動に与える影響や、音楽イベントとのコラボレーションなどを、日本のヒット音楽の歴史を重ね合わせて解説する「BGMコンサルタント」のビジネス書。
 中身より、タイトルが一番素敵な本で、音楽は更に不幸である。

5、毛利嘉孝『ポピュラー音楽と資本主義』(せりか書房

 そもそも高度に発達した資本主義の中で、音楽は「幸福」どころではないわけで、「ポピュラー音楽と資本主義」というそのままのタイトルをもった本。
 アドルノの大衆消費文化批判を意識しながら、ブラックミュージックが「商業化」せざるを得なかった背景や、ポップスの様々な有り様が紹介される。最後に指摘されているこれからの変化を予測した部分に頷かされる。

以下箇条書き。
 ・音楽の断片化と散逸化
 ・マスメディアの相対的な地位低下
 ・アクセサリー化と消費サイクルの加速化
 ・アーカイブ化と消費の長期化
 ・音楽批評の相対的地位の低下
 ・音楽ソフトの相対的コスト低減
 ・パートタイム・ミュージシャンの増加
 ・ライブ、コンサートの活発化
だそうだ。

6、東谷護・編著『ポピュラー音楽へのまなざし 売る・読む・楽しむ』(勁草書房

 芸術性と市場性は、使用価値と交換価値の対照を参考にして考察することができる。一般の商品と同様に、両者は関係がありそうで、無かったり、有ったりするのである。
 本書は、消費社会、企業活動、グローバル化、音楽学、アメリカ、カル・スタ、サブ・カルなど様々な分野、領域の専門家13人による論文集だ。
 ポピュラー音楽をめぐる論点を一望するに便利。

7、大谷能生『貧しい音楽』(月曜社

 批評家、音楽家の大谷能生さん(1972年生まれ)の論文やインタビュー記事をまとめた本で、グレー(銀)の装丁と文字の色が、かっこよい。
 「大量に生産され、大量に消費されてゆく工業生産物だと分かっているのにもかかわらず、レコードという物質はほとんどイメージの体験そのものとして、僕たちの目の前で回転している。これほどはっきりと物質的であると同時に精神的な出来事は、おそらく他には(ボリス・ヴィアンが指摘していたとおり)可愛い女の子との恋愛以外にないだろう」。
 確かに本は回転しないし、iPodの稼働部は見えない。
 ポピュラー音楽を通り抜けた「前衛」と「真実のうそ」は意外に近い関係なのかもしれない。まさか!

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