2008年6月 9日

畳の上で水泳を練習する=音楽本21連発(下)

 3回目でやっと「ジャズ本」6冊に達した。読んで聴きたくなる率は高い。何といっても好きで聴いているわけだし、登場人物も現代人ばかり(バッハの心境など想像するに難い)で、分かりやすい。
 一方、あまりに身近すぎて、篩に掛けられていないため、同じ「ジャズ」でも、まったくよく分からないのも多い。クラブ・ジャズはともかく、「中央線ジャズ」とは初耳だった。

16、林家正蔵『知識ゼロからのジャズ入門』(幻冬舎

 落語家、林家正蔵さん(1962-)さんの入門書。楽器別にジャズ・ジャイアンツを紹介し、特徴、名盤、師匠のコメントがある。全般にイラストも大きく、すぐに読めてしまう。

 ただし、最後の「ジャズ名演解剖」が白眉! バド・パウエルの「ウン・ポコ・ローコ」やリー・モーガンの「キャンディ」など7曲をチャート化して解説している。
 曲の時間を横軸に、縦軸には「動-静」を配置し、ピアノなどの楽器の演奏を「棒グラフ」で表す。「強引にドラム・ソロに割り込み、テーマに戻るパウエル」といったコメントが決め手だ。
 付録のCDに4曲収録されていて、すぐに楽しめるのが便利。かゆいところに手が届くのだ。
 演奏を文章で表すのではなく、楽譜でもちろんなく、「チャート」というのが新鮮だ。聴きながらチャートを辿るのは、とても分かりやすい。今度、聴きながら自分でもノートに書いてみようかと思う。


17、明田川荘之・監修『中央線ジャズ決定版101 極私的こだわりジャズ・ディスク・ガイド』(音楽出版社

 ジャズ本を沢山買ったけれど、掲載されているアルバムを1枚も持っていないのは初めてだろう。
 どんな本でも、紹介されているアルバムを、まず何枚かは持っていた。その上で、さらに何枚か買いたくなるのがお決まりのパターンだった。
 戦後世代の日本人によるジャズ(最近では「和ジャズ」というらしいが)を聴いていないからだが、ジャズの奥の深さを体感した次第。

 聴かなかった理由は単純だ。
 ジャズを聴き出したのが90年代で、同時代というには古かったこと。大西順子さんや山中千尋さんのような同時代のミュージシャンであれば、新譜を楽しみにすることができる。
 同時代のヨーロッパやアメリカのジャズを聴くのが楽しかったこと。
 もちろん、1950年代以降のジャズが一番輝いていた時代のアメリカのジャズを聴くのに精いっぱいだったこともある。

 ただ残念ながら、この世界に足を踏み入れるのはまだ先になりそう。ちょっと、恐そうだし。


18、中川ヨウ『ジャズに生きた女たち』(平凡社新書

 アメリカ大統領選挙の民主党予備選挙で、ヒラリー・クリントンさんは、民主党の大統領候補になれなかった。
 女性と人種では、人種の方が差別される度合い低いのか。あれだけのキャリアと実力と準備を重ねても、女性は大統領になれないのか、と途方に暮れてしまいそうだ。ちなみに、日本にパラフレーズすれば、女性と在日なのだろうか。

 本書は、その性別と人種という点で二重にマイノリティーであった女性のジャズに生きた8人を辿る評伝だ。ミュージシャンだけでないセレクトが特徴的。
 登場するのは、リル・ハーディン・アームストロング。ベッシー・スミス、メアリー・ルー・ウィリアムズ、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、パノニカ・ド・ケーニグスウォーター、アリス・コルトレーン、穐吉敏子の各氏。
 ジャズの魅力と魔力に引き込まれた群像は、普通の「男性中心」ジャズ本とは違う側面があって、考えさせられる。それに、こと日本に関する限り、圧倒的に女性ミュージシャンに存在感があるので、時代の違いも。
 いずれ「ジャズに生きる男たち」という本が生まれるのだろう。


19、小川隆夫『愛しきジャズマンたち ジャズ楽屋噺』(東京キララ社
20、小川隆夫『知っているようで知らない ジャズ名盤 おもしろ雑学事典』(ヤマハミュージックメディア

 小川隆夫さんの快進撃は止まらない。年に何冊本を出すのだろうか。本業とされる整形外科医業務は大丈夫なのだろうか、と不安になる。
 言い方は失礼だけれど、これだけ同じ話題を繰り返し、本にしているにも関わらず、読んでいて不愉快にならないのは、文体と個性、伝わってくる人柄なのだろうか。
 そして、それだけ企画が通るということは、それに見合って売れているわけで、人気があるのだろう。現に私もよく買っている。

 19は「愛しのジャズメン」シリーズの第三弾で、発売元が河出書房新社に変わったけれど、基本は同じ。1980年代、ニューヨークに留学した小川さんの、交友とその後の取材がベースの「楽屋話」だ。楽しそうである。悔しいくらいである。夜道であったら、声を掛けたいくらいだ。

 20は、いわゆる「名盤」を軸に、ジャズの「小話」をまとめた1冊。どこかで聞いた、読んだ話しが多いけれど、復習と確認である。お酒を飲むとその時の記憶だけでなく、過去の記憶も消えるので、その度に感動できるのだ。


21、岩浪洋三『これがジャズ史だ〜その嘘と真実〜』(朔北社

 不思議な読後感を抱くことになる「ジャズ史本」だ。
 あまたある同様の本と何かが違う。
 差別されてきた黒人だけでなく、同じく「ユダヤ人」に焦点をあて、通説を疑ってみたり、「遊びに徹したジャズ」を称揚してみたり、黒人は「さぼる」とかの異説が盛り込まれているからだろう。
 しかし、その割に元スイングジャーナル編集長は、真面目な通史から完全に離れることもできなくなっている。ちょっと中途半端で、かつ分量が多すぎるのだ。
 さらに砕けた「嘘と真実」を、独特な文体で読みたいもの。

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