2008年10月26日

山中千尋さんの新作『Bravogue』の音に身を任す

 9月24日、山中千尋さんの新作『Bravogue』が発売された。早いもので、もう一ヶ月以上が経ってしまった。
bravogue.jpg
 前作『After Hours』から約半年。ユニバーサルに移籍して5作目のアルバムとなり、澤野工房時代と違い、リリースの間隔がとても短い。ちょっと慌ただしい感じ。
 今回は、SHM-CDという新しいタイプのCDで、収録風景やニューヨーク・ガイド(?)のDVDがついた初回限定版(3,500円)と普通のCD(3,000円)が同時発売。少しずつ値段が上がっているようで、心配だ。

 さて、山中千尋さんの音楽は明快である。まず音を聴く。術中にはまる。それだけである。
 連続する音符だけを素直に聴き続ける喜びと快楽。何を表現しているかではなく、その表現そのもの、その感覚を、グルーブとかスイングとか言葉にしてしまうと、その瞬間に何かが失われてしまう。いや、もともと無いのだから、失われるコトさえも不可能な感受性の境界線を楽しめばいい。
 そして、何といっても大音量で、お酒を片手に聴きたい。山中さん本人が雑誌のインタビューで、「ライブのように」とアルバムの肝を説明している。そう。ジャズのライブといえば、お酒である。
 最初から音の魅力が満載だ。こうして言葉にしたところで、まずは聴くしかない。

 メンバーは、山中千尋さん(p)と、Vicente Archer(b)、Gene Jackson(ds)。Vicenteは、ベースとドラムスのトリオだった前作『Abyss』でも共演したメンバーで、ドラムスが交代した格好だ。Gene Jacksonは、Herbie Hancock(p)と共演したことで知られる。

 収録されているのは以下の12曲。

1、Aquarian Melody
2、Carillon
3、A Time For Love
4、Uni
5、Vou Deitar E Rolor
6、Boolavogue
7、Dois Pra L , Dois Pra C
8、Circle
9、Le Fruit D fendu
10、Staccato
11、When You Wish Upon A Star
12、Backstroke Dance

 1は、高音の連打で、初っぱなから耳が引き込まれる。さわやかな冒頭の曲でよい。アルバムの最初はこうでないと。いつもの山中節も混じって、フフフである。力強い右手が心地よい。もちろん、左手の低音も効いている。ドラムスとテンションが上がっていく様子は、ご機嫌だ。

 2は、初回限定版に付属するDVDで使われている曲で、その内容がニューヨークの観光案内のようで、すーっと聞き流してしまいそうだが、どうして、どうして。ドラムスとピアノの掛け合いが冒頭から素敵で、やはり秋にぴったりなオリジナルだ。優しい気持ちになれる曲。ピアノ・ソロの転がるようなフレーズが訴えかけてくる。
 繰り返される音、リズム、フレーズが身体に巻き付いてくるようだ。ドラムスの変わったリズムと展開、転回で身体は揺れもする。そして印象的なドラムスに続くピアノ・ソロには山中さんらしくてよい。好きである。

 左右から音がウヨウヨ、サウンドの3だ。ドラムスのリズムがたまらない。今回のドラマーのGene Jacksonの魅力がたっぷり楽しめる。ハモンドB3を自在に操って繰り出されるフレーズにどっきり。大音量で身を任せたい。アルコールがあればもっと最高だ。グワングワンと終わる。

 4は本アルバムで一番好きな曲。オリジナルだ。出だしでは何度も頷いてしまいそう。首がしなる。鉛筆のUNIから来ているネーミングだそうで、間違ってもUNIQLOではない。
 懐かしいようなフレーズが満載。もっともっと聴いていたいと思いつつ終わる。

 5は、ゴージャスで、ラテンで軽快、爽やかに走り続けるアスリートのような曲だ。ピアノ・ソロではニヤニヤさせられる山中節がてんこ盛り。どこかで聴いたことのある有名曲のメロディもコラージュされ、楽しめること請け合い。遊び心いっぱいで、楽しんでいるとしか思えない。ドラムスもビシバシたのしい。

 さて、ここまで一気に山中さんの音に身を任せてきた。曲の配列も素晴らしいの一言。で、ちょっと一息の6。アルバム名と同音だが、山中さんの造語である「Bravogue」とちょっと綴りが違う。
 アイルランドの闘争の歌だそうだ。ベースとドラムスの不思議な世界からピアノが浮かび上がる。戦いの終わった古戦場をビールを片手に歩くようだ。格好良いのだ。ピアノ・ソロは、次々と繰り出される鉄砲の弾だろうか。息つく間も無く飛んでくる。受け止めよう! と思えば童謡のようでもあったり、素朴な部分も魅力的。

 7はドラムスの出だしにびっくり。ちょっとのんびりした雰囲気の一曲。メランコリーであろうか。きちんと一音一音を耳に刻んで聴く。が、2分5秒ごろ、ちょろりとスイッチが入って、ウムムとなる。益々聴き耳を立てる。3分4秒ごろ、さらにスイッチが入って、リズムとフレーズが踊り出す。のんびりムードがご機嫌な夕暮れに。いいぞ、山中! である。
 こういった転換は楽しい。で、ちょっとフェードアウトで終わって、メランコリーを思い出すのだ。

 8が始まる。さあ、行くぞ、攻撃か、と思いきや「口角上げて運気アップ」(a.k.a.)ならぬオリジナルの「Circle」である。ベースが腹に響く。ライブで何度か聴いたけれど、「進化」したバージョンの、嬉しくなる演奏で、どこか懐かしいような展開もいい。内なる掛け合い。古きよき時代のパブでガハハと飲み遊んでいるようだ。短く刻んだメロディが効果的で、応えてくれるベースがいい。可愛らしいフレーズも良く、ヘキサゴンと終わる。

 9は、ドラムスとベースが忍び寄るスタート。緩急のはっきりした曲順だったので、この曲では一息つくのがルール。メロディーをじっくり聴かせるアレンジで、ピアノ・ソロも奥行きのあるフレーズが重ねられ豪華感あり。訴えかけてくる。10は、大好きだ。素晴らしい。何といっても気分転換に最適。3分間クッキングでも、キューピーでも、スタッカートには勝てないのだ。「2:30 RAG」のように心地よい。

 11はディズニーの有名曲。ゆったりと心地よいメロディーが流れ、ドラムスのブラシが耳をくすぐる。素敵だ。ライブでも歌いながら演奏することがあったけれど、本録音でもスタジオで歌う山中さんの姿が浮かんでくる。ベース・ソロも聴きもの。最後のピアノの音が胸に響く。

 いよいよ最後の12は、山中さんセレクションのコンピレーション盤「Universal A Go Go」に収録されていた曲で、2年ぶりに帰ってきた。その時は、あっと言う間に終わったが、今回はばっちり。アルバムの最後にふさわしい心温まるオリジナルだ。ピアノ・トリオを聴いていて、いいなあ、と思うようなナイスなピアノ・ソロを楽しむ。
 ちょっと寂しいけれど、また次もあると心に言い聞かせて、アルバムが終わる。

 短期間でのリリースにも関わらず、とても素敵なアルバムを作ってくれた。流石である。音に身を任せて、楽しむ秋の夜長。バーボンを片手に。

 さて、おまけのDVDである。録音風景とインタビュー、山中さんがレポーターをつとめるニューヨークの見どころ紹介、といった感じのムービーだ。ユニバーサルに移籍してからおまけがつくようになったけれど、これまでの中では、一番お金と時間は掛かっていそう。ニューヨークの旅番組のようで、行きたくなる。それに、スタジオのデリバリーが美味しそうだ。
 さらに、SHM-CDである。折角なので、普通のCD盤も買ってきて聴き比べてみた。うーん。家の貧相なスピーカーではほとんど分からない。いや、私のチープな耳だからだろう。ちなみに、普通のCDの通常版にはDVDもつかない。

 DVDとSHM-CDということで、値段が高くなっているけれど、どうだろうか。おまけを付けるより安くして欲しいと思う人も多いだろうなあ。もちろん、両方買ってしまうような人がいるので、ビジネスとしてはばっちりだ(?)。

 この冬には収録のメンバーでの国内ツアーも予定されいて、すでにワクワク。
 発売からちょっと間が空いてしまった。立て込んでいて、やっと。

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