本業より副業で面白い本
年末年始は笑い転げざるを得ない。
劇作家・演出家の宮沢章夫さんのエッセイ集4冊を立て続けに読んでいたのだ。「ツボにはまる」というのだろうか、ソファで、電車の中で、椅子に座って、笑い続けていた。お酒を飲むのが一時中断したくらいだ。
宮沢章夫さんは、1956年静岡県掛川生まれで、多摩美術大学中退。竹中直人、いとうせいこう両氏らと「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」を結成、演出などを担当。その後、劇団「遊園地再生計画」を結成したことで知られる、らしいが、僕が知っているのは、エッセイストとしての宮沢章夫さんだ。
本業の舞台を見たこともないし、今後もまずみることはないような気がする。副業で十二分に楽しませてもらいっているからいいのだ。
ちょっと前に『「資本論」も読む』を読んだけれど、これも本業とは無関係のエッセイ(?)だった。
今回一気に読んだのは新潮文庫の4冊。
1、『牛への道』
2、『わからなくなってきました』
3、『よくわからないねじ』
4、『アップルの人』
である。
きっかけは車内吊り広告。4が今月の新刊として地下鉄の中吊り広告に載っていた。
MacやiPodの「アップル」だろうかと、手に取って読んで、大笑い。「MacPower」の連載がもとで、半分はMacを中心にしたコンピュータのお話。
でも本領は全く別のところにある。目の付け所とか、気にしてしまう点が気になって仕方ない。
例えば、一時期話題になった「Web標準」である。
「だが、その「標準」って態度が気に入らないのだ。
いったい、誰が「標準」なんてものを決めやがったんだ。出てこいこのやろう。おまえらそんなに偉いのか。そうした「標準」に従い、それを推薦する人たちがしばしば口にするのが、次の言葉だ。
「W3C勧告」
その「W3C」ってやつの意味が分からないんだよ俺は。」
ときて、だったら「吉野家勧告」、「牛丼標準」があってもいいではないか、等々と話は続く。
あまりツボにはまらない人も多そうだが、1〜3もすぐに入手。1日半で読み切ってしまった。パターンも見えてきたし、しばらくはお腹一杯なので、もういい感じ。でも、近く禁断症状を起こしそうだ。お節料理のようだ(?)。
いずれにしても、本業の舞台を見に行きたくならないのが残念である。
そう言えば、ちょっと間に読んだ、同じく宮沢章夫さんの『東京大学「80年代地下文化論」講義』(白夜ライブラリー)も面白かった。東京大学での講義をまとめたもの。
何だか楽しかった80年代を、原宿にあったクラブ「ピテカントロプス・エレクトス」での出来事を軸にして、西武セゾン文化、YMO、アニメ、浅田彰などなどでたどる。懐かしいし、そうだったのか、と「膝を打つ」ことしきりだった。
タモリの発言「冗談で80年代は根が明るいか暗いかその差になってくると言ってるんですけど、考えてみればけっこうこれは意味の深いことで、ニーチェもひじょうによかったんですけれども、いま一歩、こう、カッとくるところの差というのは「冗談の欠如」というのがかなりあるんじゃないかとおもうんですな」から、80年代に冗談が冗談として本気に流通した時代を暴く(?)。
そして、タモリこそがその時代を代表するコメディアンだとする。
「タモリという人については、ずいぶん多くのことが語られてきたが、本質はこのことではなかったかと思う。「芸を売るのではなく、情報を売ってきた」のだ。そして、その意味においてと、限定的な言い方をすれば、彼は80年代を代表する喜劇人だ。」
東京大学の講義録で、本業より副業といえば、菊池成孔さんと大谷能生さんだ。
マイルス・デイヴィス本といえば、誰かの年々分厚くなる「聴けシリーズ」が有名だが、厚みでは一気にトップに躍り出たのが菊池、大谷両氏による『M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究』(エスクァイア マガジン ジャパン)。
文字通りマイルスの歩みと文化、音楽をたっぷりと盛り込んだ内容で、本は重いが、内容は無いよう、ではなく内容も盛りだくさん。
その上で、マイルスの音楽だけでなく、菊池さんの音楽も聴きたくならないのがすごい。やはり副業の魅力であろう。
副業といえば、慶応大学法学部准教授で政治学が専門の片山杜秀さんのクラシック音楽評論『音盤考現学』(ARTES)も、ある意味楽しい。
これを読んでも、片山さんの著作=『近代日本の右翼思想』(講談社選書メチエ)=を読みたくはならないし、掲載されているアルバムも、まず聴きたくはならないが、その評論の切り口や話しの持っていき方、表現は確かに新しいタイプの音楽評論で、一読の価値はある。
最後に、本業も副業も素敵なのは、ピアニストの南博さん。
ボストンに留学するまでの顛末(銀座のクラブの内幕など抱腹絶倒である)をまとめた『白鍵と黒鍵の間に ピアニスト・エレジー銀座編』(小学館)は、まずは手に取って読むべき。これもまた80年代末のバブルの裏面を確認できるし、大いに楽しめる本だ。
そして、南博トリオのアルバム『Like Someone In Love』(ewe)もいい。出だしから、耳がスピーカーから離れないはずだ。
どちらが本業か分からないが、整形外科医・小川隆夫さんの「ジャズ本」は、すべて副業になってしまうのだろうか。
もし整形外科の方が副業だとすると、そっちの方が面白いことになる。さて、どんな治療か受けてみたいが、ちょっと恐い(?)

コメント
こんにちは。
宮沢さんの文庫,私はこの順番で読みました。
そのため,「アップルの人」はひねりが足りないとちょっとがっかりしました。
土屋賢二さんものもそうですが,続けて読むと飽きがくるのが早いです。
「東京大学のアルバート・アイラー」は,音楽理論の理解が無い私には,宝の持ち腐れ状態でした。
ただ,「鈴が登場すると相当危ない」はおかしかったです。
それでは
Posted by 干菜(BlueSky3n) at 2010年2月14日 09:58
干菜様
コメントをありがとうございます。
大江健三郎の『水死』は、ちかぢか読んでみようと思います。
読みたい本が山積みで、そこまで到達しないのです。
では。
kenyama
Posted by kenyama at 2010年2月14日 10:41
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