2009年9月23日

小室哲哉の『罪と音楽』

 タイトルを見て買ってしまった。小室哲哉さんの『罪と音楽』(幻冬舎)である。黒い中でピアノの前に座る小室さんが浮かび上がって見える表紙も「罪」っぽい。
 ビヤホールで、生をぐびぐび飲みながらすぐに読めてしまうのは、流石に分かりやすく、印象的な「小室サウンド」そのものだ。積極的に小室さんの音楽を聞いたことはないけれど、街中に彼の曲は溢れていたので、気になったのだ。

 08年11月に詐欺罪の容疑で逮捕され、09年5月に懲役3年(執行猶予5年)の判決が下り、確定した小室さんの心境と今後の決意を記した本である。

 大阪で逮捕される前後の「大騒ぎ」からまだ1年たっていないのに本になる。流石は「幻冬舎」である。
 音楽が好きで、大ヒットを飛ばして、お金を得た。その使い道が、海外の別荘だったり、会社だったり。魚介類が食べられないのに、クルーザーを買ったり。少々、判断力には問題があったようだ。

 しかし、「音楽をとったら何も残らなかった」小室さんは、被害者への謝罪と会社、ファンへ「真人間」となる決意を表明し、再び「大ヒット」を誓う。すごいのである。大丈夫だろうか。

 これからの音楽のかたちについては、スピード感を強調する。

「『21世紀型』とは、あらかじめ決められたとおりに実行するのではなく、いかにリアルタイムで変化できるかではないだろうか。
 そのスピード感を感じられるか、否かだ」。

として、その理由として、台本をなぞるよりフリートークが好まれることを指摘する。

 そして、自分も参加していたglobeのライブでは、カメラを置いて舞台を演奏中にもチェック。リアルタイムで照明などの効果を、イヤーモニターで指示を出していたという。

 さらに理想のミュージシャンとして、矜持も見せる。

「生のステージを見たり、生の歌や演奏を聴いたりしたとき、『これはとてもお笑いのネタにはできない』と思わせるくらいの迫力や神々しさを放っていなければ駄目だという、秘めた覚悟はある」

 ところで、本筋とはあまり関係のないネタも面白い。「体内グルーブ」である。

 その人の名前で体内グルーブが決まるという。
 氏名によって、「自分の気持ちいい喋り方(話すBPMや抑揚など)、あるいは他人に伝わりやすい喋り方が決まってくるのではないか」という訳だ。
 演奏を開始するときに、ドラマーが「ワン・ツー・スリー・フォー!」とカウントを入れる要領で、「チ・チ・チ・チ」とカウントを入れてから、自分の名前を言うのだ。字余りだったり、字足らずだったりする名前もあるが、何度がやっているとしっくりする乗せ方がわかり、それが「体内グルーブ」だという。
 自分の名前でやってみたが、何とも座りが悪い。リズムも音程もあったものではない。やれやれ。

 ちなみに流行りの政治学者、姜尚中さんの声は素晴らしい倍音構成で、リズムもよく心地よいのだそうだ。

 音楽家は文章もうまく、そういった人のエッセイなどは愛読している。評論家の文章より、それこそ「グルーブ」もよく、心地よい。その意味で、本書は読みやすく、小室さんの人となりが見えてくる。
 しかし、現実感が薄い、ヴァーチャルな印象を持つのは、彼の音楽と一緒だろう。浪花節の対極。

 それに、阿片常習者でも、殺人でも、何か規範を犯した人の文章・表現には魅力があるもの。「罪」と「音楽」、「罪」と「文学」、「罪」と「文楽」、「罪」と「快楽」、「罪」と「転落」、「罪」と「解脱」。いろいろ思いつく。

 その他、90年代サウンドの分析やライバルの話など「秘話」もあって、ふんふんと楽しめる。さて、新作はいつでるのだろうか。

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