2010年9月22日

山中千尋さんの『Forever Begins』は、多彩なモザイク。じっくり楽しもう。

 9月22日、大好きな山中千尋さんのニューアルバム『Forever Begins』(Verve)が発売になった。ピアノ・トリオの作品としては『Bravogue』(Verve)以来、2年ぶりとなる。
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 音とメロディー、フレーズが織りなされた宝物のような演奏で、暑かった夏が終わり、きっと心地よくなる秋の夜長にじっくり楽しみたい作品になっている。2010年代の最初のアルバムで、ピアノのエフェクトをも使わない純粋アコースティックな演奏によって、新しいステップを切り開いた作品だ。

 山中千尋さんは、2001年のデビューし、10年目の区切りの年を迎えている。来年の秋は、文字通り10周年で、更なる飛躍の基盤となる作品を作ってくれた。

 メンバーは、ピアノの山中さんのほか、Ben Williams(b)、Kendrick Scott(ds)で、2010年5月16日と6月20日にニューヨークのアヴァター・スタジオでの録音だ。

 収録されているのは以下の通り。

1、So Long
2、Blue Pearl
3、Summer Wave
4、Cherokee
5、w.w.w.
6、Good Morning Heartache
7、Saudade E Carinho
8、Forever Begins
9、The Moon Was Yellow
10、Avance

 何といってもアルバムは、最初の1曲が肝心で、今回の1は、その点バッチリな山中さんのオリジナルだ。どこか懐かしい感じのするメロディーから、素敵なピアノ・ソロに、転がるようにつながる。どこかで聴いたことのあるような、ないようなニヤリとしたくなるフレーズが満載だ。でも、そこに秘めたる繊細は山中節。組み合わされたピアノの音とリズム、ベースとドラムスも、くっきりと浮かび上がってくる。抜群。2は、Bud Powellの作品。Budらしいメロディーを刻んでから、いつもの軽快な山中さんの演奏になる。ここも差し込まれるピアノがいい。これまでのアルバムから、いろいろと思い起こされる。芸が細かくニヤリ。ベースの嬉しいソロがあって、低音が心に響く。身体が動くというものだ。

 筒美京平さんらしい、分かりやすいメロディーが、ドラマチックに繰り広げられる。こうした山中さんのピアノもいいなあ。ピアノ・ソロの展開が速いのも嬉しい。しかし、耳を傾けると凝ったピアノ・ソロで、なのに、それゆえに優しい気持ちになれる曲である。繰り返される高音の反復を楽しむうちに、一気に4になだれ込む。
 4は、「さっさと始めましょう!」という感じで、ゆったり目のチェロキー。やはり個性的なピアノ・ソロで、山中さんが歌いながら演奏する姿が目に浮かんでくる。変拍子のアレンジでも、どっこい、さっさと進みましょう!、といった感じで、テンポも急転直下。はやい、はやい。耳が嬉しくなる。ただし、最初の「チェロキー感」はどこに? と最後はシンプルなピアノで締めくくるのかと思いきや、急転し目が覚める。

 5は、ベースの反復で重い雰囲気でスタートする。ピアノもメロディーをゆっくり刻む。でも、どこからか、身体がスイングし始める。宙に投げ込まれるピアノの響きとフレーズを耳に焼き付ける。ドラムスのソロも響く。6は、一転してゆっくりピアノのオリジナル。ベースの音色が印象的なスタートだ。折り重ねて、しっとりとさせるピアノがいい。本当に歌う山中さんの声も記録されている。息遣いも伝わってきて、情感と思いの込められたソロが美しい。
 中南米、アフリカだろうか、すべてを焼き尽くすような白い日差しの中、明るい影に入って、テキーラを飲むのだ。哀愁の街に霧が降ったり、やんだりする国分寺書店のオババである。
 ベースが素敵に響き、ドラムスのリズムの上で、ピアノが踊る。どことなく、得心がいった感じがして、耳にストンと来る。

 8はシンプルなテーマを、ドラムスとベースが両側からか浮かび上がらせる。ピアノは更に高見に訴えかける。ベース・ソロが響く。しかし、陰影と奥行きを持った強い色彩のピアノ・ソロはグー! 9もラテンで、ご機嫌ダンス。イケイケと踊りながら、いつもの山中節を満喫する。畳みかけるピアノ・ソロにイエーッ! 一種の昭和歌謡のノリのような気もしてきた。
 アルバム最後の10は、これまでもライブで何回か聴いてきた曲。開かれた音階が、心に残る、そしてメロディーだ。そして抽象的な展開で、ピアノの低音が効果的に響く。もちろん、どこかで聴いたことのあるようなフレーズを織り交ぜることを忘れない。ちょうど、1時間の夢見心地なアルバムだ。
 
 山中さんは、「Jazz Life」(2010年10月号)のインタビューで、今回の作品を、澤野工房からリリースしたデビュー2作目『When October Goes』で、できなかったことを実現した続編だと話している。『When October Goes』は、赤レンガを背景にした山中さんが印象的なアルバム・ジャケットで、今回のエンジ色を基調としたジャケットと符合する。
 ちなみに同アルバムのメンバーは、Jeff Ballard(ds)、Larry Grenadier(b)で、要は、Brad Mehldau Trio without Brad Mehldau with Chihiro Yamanaka である。

 今回のアルバムは、大人びたシックな写真が素敵なリーフレットで、評論家の岩浪洋三さんのライナーノーツも入っている。山中さんのアルバムに、本格的なライナーノーツが入るのは初めてだと思う。中面のモノクロの写真も、CDの盤面のピンク色とあわせて、アルバムをより印象的なものにしている。

 秋にはビルボード・ライブ東京、大阪を軸に日本各地で「Forever Begins」ツアーが予定されている。楽しみである。

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コメント

kenyamaさん、どうもお久しぶりです。
こちらからもTBさせていただきます。

2年ぶりに聴いた山中でしたが、とても良かったです。
レコーディングでもこれだけピアノを弾き倒しているのですから、ライブだともっと凄いことになるでしょうね。
大西も見事に復帰したことだし、これからの2人の活躍ぶりがますます楽しみになってきました。

naryさん、コメント、TB、ありがとうございます。
山中千尋さんのライブは、何度も聴きに行っていますが、その熱演とスイング(ドライブ?)感は、毎回心地よく、ついついお酒を飲んでしまいます。
来月もライブに行く予定で、楽しみにしています。
では。

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