ギンギンに力強いぞ、Eric Lewisのピアノ・ソロ
何より賑やかである。ガンガンと頭に響く。ボリュームの設定を間違えると、ヘッドフォンを外したくなる。さらに、すごいコピーが貼られている。
「平成の黒船、開国を迫る! スラム街からホワイトハウスへ」。2年前の大統領選挙のようだ。Change!である。が、今は昔。

ピアニスト、Eric Lewisの新譜『Rockjazz Vol.1』(avex trax)だが、「ソロ・ピアノ」という雰囲気、静謐で緊張感のある演奏とはほど遠い。
10月末、新譜発売を記念して来日し、名古屋と東京で演奏を披露した。バンドメンバーとしては何度か来日し、日本のアニメや忍者が好きな37歳である。
ピアノの前にイスを置かず、ずっと立ったまま、鍵盤に立ち向かって演奏するのが特徴。しかし、唸りながら演奏する人やヒジで鍵盤を叩く人、燃えたピアノを引く人など、演奏「スタイル」が特徴的なピアニストは多いけれど、腕にプロテクターを付けて、格闘技を標榜するのにはびっくりである。
もちろん、普通に演奏している姿が、本人曰く「ダサい」(小川隆夫さんのJazz blog Keep Swingin' のインタビューから)ので、立ってみたら反響も良くて、そのスタイルを通しているとのこと。1時間、2時間のライブ中、ずっと立ちながら、力強くピアノを叩き続けるのは、足腰をかなり鍛えないといけなそうだ。クリントン大統領にも気に入られ、演奏もしたという。
ライナーによると、生まれはニュージャージー州のカムデンで、貧しい地域だが、彼は家にピアノが4台もある裕福な家の出身。ザ・マンハッタン・ジャズ・スクール・オブ・ミュージックでジャズを学び、カサンドラ・ウィルソンザ・リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラなどのバンドに参加。来日経験もある。
演奏したのは以下の通り。
1、Mr Brightside
2、The Diary Of Jane
3、Clocks
4、Sweet Home Alabama
5、Smells Like Teen Spirit
6、Heartbeats
7、Going Under
8、Smokers Outside The Hospital
9、Easier To Run
10、Lights And Sounds
11、Knives Out
12、Believer
13、Paint It Black
デビュー最初の1は、大げさなくらいの一曲目。連打、強打のエリック節だ。ポピュラーソングだ。2でも 響く低音から、メロディが浮かび上がるが、印象的な左手の轟音に耳は釘付け。凄い展開である。3, コールドプレイの作品で、どこか聞いたことのある優しい調べなのだが。
4は、アラバマに落ちるのは陽だけではない。太い指とぶつかる鍵盤のダイナミクスが伝わる演奏だ。5も、どこか切迫感と焦燥感に駆られた青春のメロディーのようだ。苦悩を表す低音と繰り返されるフレーズが、和音が響く、胸に。
6は、 遠くにある想いを、探して歩くのだ。時にたどたどしい音であっても、それは決断の瞬間の一歩手前なのだ。しかし、7で何なんだ、と聞き耳を立ててしまう出だし。そして切なく激しい感情が迸る。8については、原曲をどう調理したかが、肝だとすると、この一本調子な曲は何所に、引っ掛かりがあるのだろうか。9も、メロディーを崩して、前に進む。必要以上に響き伸ばされた低音は、可愛い高音の連打に勝てると思うか。
10で素材は違えども、調理の方法(たとえば、焼く)が同じであれば、傾向は同じな味になる。そこで大事なのは、素材の違い。弘法も筆を選んだ方がいいのである。これは、如何なる素材か。そして11。ブラッド・メルドーも取り上げたRadio Headの名曲。随分、違って低音の恩讐が印象的な演奏になっている。高音も怖いけれど。12は、刻むことで野菜の味を明確化するように、音も煮詰めることであいまいな輪郭を顕在化してくれる。最後の13、ストーンズの有名曲。最後を飾るにピッタリだ。しかし、エリックは何がしたかったのだろうか。
で、確かに一聴楽しいし、面白い。一緒に歌いたくなるくらいだ。でも、それだけでいいのか、といった実存的な疑問が頭をよぎる。が、しかし、無視しよう。これはこれだ。こんな作品なんだ。
ライナーの解説によると、「ジャズ」として売り込んだがうまくいかず、「ロック」として成立したアルバムだそうだ。
いずれにしても、何度も聞きたくなるか、次作を買いたくなるかは、明日以降の聴取態度にかかっている。
