『ノルウェイの森』は駆け足映画
村上春樹さん原作の話題作、『ノルウェイの森』を見た。原作にある大きなトピックを忠実にほぼ順番通り再現したため、とても駆け足な映画である。上下2巻を2時間強にするのだから大変だったろう。スピーディー!
主人公・ワタナベと直子は都内を京都の山奥を早歩きする。緑とは部屋の中でも早歩きする。タクシーは走り抜け、早稲田大学ではセクトがデモで走って行進する。
そして風も強い。
草の茂った草原が風に揺られるシーンや雪が適切な量、主人公たちに降り注ぐシーンなど、映画ならでは美しさである。ただし、直子が首つり自殺したことを示す、宙に浮く素足はもうちょっと綺麗に映し出して欲しかった。
そのため、個々の人物像や背景はほとんど分からず、画面だけが駆け抜けていく。
生と死、明と暗、正と負。対照的な要素が入り乱れながら魅力的な人物像が印象的だった原作の直子と緑が、くっきりと浮き彫りになってこない。直子の絶叫はもっと重く、緑のユーモアはもっと底が抜けていたはずだ。
直子のボーイフレンドで排ガス自殺したキズキも、あっけなく冒頭で死んでしまうため、何が何だか分からない。そのため、直子とワタナベの二人の必然性、絶対性が伝わらない。京都の療養所で直子と同室のレイコさんも、過去の説明が全くないので、よく分からない昭和ヒトケタの女性でしかない。
だから、原作を読んでいないと全く違った印象の物語に見えるだろう。そして、それだけでも、とても素敵な映画だと思う。メガヒットということは無いだろうが、ジワリと魅力が伝わって欲しいものだ。
であるならば、ストーリーを忠実に追うのではなく、そもそも原作の冒頭にあった描かれていない語り手であるワタナベがルフトハンザ機で着陸する場面はないわけだし、全然違う始点と切り口の映画にしても良かったと思う。コッポラ『地獄の黙示録』を見ても、コンラッドの『闇の奥』が原作とは分からないと同じだ。
学生運動の監修者がいるのには驚いた。黒や白、赤といった実在するセクトを彷彿とさせるヘルメットはなく、青などのヘルメットが多く集まっており、ちょっと気が抜けた感じだが、デモ隊も学内をやっぱり駆け抜ける。
細かいキャスティングは面白くて、笑ってしまった。村上春樹さんはバーテンダーでちょこっと登場。流石、もとジャズ喫茶経営者、慣れた手つきで、ワタナベにカクテルをサーブする。
細野春臣のレコード店主もいい。ワタナベがケガをしたとき、手にタオルをもって(ゆっくり)駆けつける無演技な表情の演技は抜群だ。京都の療養所の門番をする高橋幸宏もいい。
セックスシーンは、全くいやらしくない。最後の方で遠景で、直子がワタナベをフェラチオするシーンが一番、不穏である。雪の中で寒そうだからだ。
しかし、松山ケンイチの演技による話し方はあまりにそっけないような気がする。やれやれ。
