2011年8月26日

山中千尋さんの『Reminiscence』は多彩で、ハッピー

 大好きなジャズ・ピアノスト、山中千尋さんの11枚目のアルバム『Reminiscence』(Verve/UniverSal)が、8月24日に発売された。澤野工房からのCDデビューから丁度10年という記念の秋に向けて、これまでと違った山中さんの世界を垣間見ることができる快作だ。ReminiscenceNormal.jpg
 特に今回は、グルーヴのあるドラムスで知られるBernard "Pretty" Purdieが、Larry Grenadierのベースによるトリオ演奏が2曲盛り込まれていて、アルバムに彩りを加えている。そしてバックに登場する山中さんのフェンダー・ローズ、オルガンが、効果的な隠し味になっているのだ。

 ジャズのスタンダードや日本の歌などをアレンジし、新たなる表情を浮かび上がらせ、そのことで聴く者に、快楽と満足を与えるこれまでのアルバムの射程を更に広げた。ポップスにラテン、幅広いジャンルの音楽が山中さんの手で調理されている。これからの活躍と次のライブが楽しみになる。

 マスタリングは、ポップスの大物アーチストを手がけてきたTom Coyneで、透明感のある聞きやすいサウンドに仕上がった。

 パッケージングも凝っている。3種類、つまり通常のCDのほか、DVDのおまけがつくSHM-CD盤、さらに高音質のSACD盤である。ジャケットの写真が違う上に、中面の写真がどれも違う。ディスク盤面のプリントはシルバーを基調にした鍵盤をモチーフにしたイラストだが、SACD盤は、音質のため違ったデザインになっている。私は買ったものの、SACDを再生する機器がないので眺めているだけだが。

 収録曲と作曲者は以下の通り。

1、Rain, Rain and Rain(ChihiroYamanaka)
2、Soul Searchin' (Horace Silver)
3、(They Long To Be) Close To You (Burt Bacharach / Hal David)
4、Dead Meat (Sean Ono Lennon)
5、Ele e Ela (Marcos Valle)
6、This Masquerade (Leon Russell)
7、She Did It Again (Michel Petrucciani)
8、You've Got A Friend (Carole King) / Central Park West (John Coltrane)
9、La Samba des Prophetes (Aldo Angelo Romano / Claude Nougaro)
10、Can't Take My Eyes Off Of You (Bob Crewe / Bob Gaudio)

 メンバーは、6と8曲目以外は、脇義典(b)、John Davis(ds)。6と8は、Bernard "Pretty" Purdie(ds)、Larry Grenadier(b)である。録音は、2011年6月27日のニューヨークである。

 日ごろから、アルバムは冒頭1曲目が肝心だと思っている。店頭の視聴機でも、iTunesStoreでも、人はまず1曲目を聴いて、印象を決める。その意味で、『Reminiscence』は、ばっちりである。
 1曲目は、山中さんのオリジナルで、迫り来るイントロと優しいメロディーがいい。耳を傾け。旋律をたどりたくなる。今年(2011)あったことを忘れないためのアルバムで、解決しない旋律で、ソロでも情感と思いがつのる。

 2の「Soul Seachin'」は、知られざるホレス・シルバーの作品で、ちょっとしたラテンな感じが嬉しいし、ピアノによるテーマが響く。

 カーペンターズのヒットで知られる3(アップル・コンピュータ社のOpen MindのテレビCMでも使われていたような)は、ポップでいいなあ、と思わずつぶやいてから、お馴染みのメロディーを明るく料理する山中さんに感嘆。ソロがとても手が込んでいるのだ。
 ジョンとヨーコのレノン夫妻の息子の4は、哀愁のただよう、切ないメロディーが耳に残る。何を探し、求めているのか。ドラムスのシンバルの音が光って目に映る。5の冒頭しょっぱなから、ドラムスのパンパンという響きが心地よい。ピアノの音は転がり、くっきりと音を浮かび上がらせる。歌うベーシストもいい。

 バーナードとラリーによるトリオの6は、聞き慣れたポピュラー・ソングを山中さんがシンプルなピアノで表現する。ドラムスは、くっきりと印象的で、正確。でも、どこか身体が動きだしそうだ。ベースもうなる、うなる。もちろん、いつもの山中節もまじってニッコリ。7もなんだか身体が動き出す。ペトルチアーニの曲だが、楽しいね。「Rhapsody In Bleu」のフレーズも聞こえてくる。8も、6と同様の バーナードとラリーによるトリオだ。今度は、思わず歌いたくなる。ドラムスは力強いし、ピアノもくっきりとメロディを打ち出す。

 軽快で嬉しい9に続いて、白眉は10である。ダンスだ!、ディスコだ!、80年代だ。豊かに広がるピアノのテーマが、心地よい。イエイエー! である。クルクルした感じで盛り上がり、手のこんだピアノ・ソロを楽しむ。終わったようで、終わらない。そう、こんなアルバムを聴いている時間は終わらないで欲しい。スクリャービンのピアノ・ソナタが混じって、音楽が曲と曲の間で行ったり来たり、戻ったり。遊び心が一杯である。

  東京だけでなく、大阪でも販促イベントが予定されており、大変である。稲垣潤一さんとのコラボレーションも箱根、葉山に続いて、東京・コットンクラブでも開かれる。

 今年の忘れられないことの一つは、このアルバムなのである。
 山中さんには、これからもジャズを引っ張っていって欲しいもの、何十年も。

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