山中千尋さんの新しいアルバム収録曲を聴いて涙する
東京・岩本町のジャズ・クラブ・東京TUCで、7月30日、暑さを吹き飛ばす山中千尋さんのライブが開かれた。

8月24日に予定されている11枚目の新アルバム『Reminiscence』(ユニバーサル・Verve)の発売を前に、その収録曲を披露してくれる。
聴いてすぐに分かる、千尋さんらしいメロディとアレンジで、目に涙があふれてくる。デビュー10周年を迎え、更なる飛躍で、発売が楽しみである。
新アルバムは、通常のCDだけでなく、DVD付きの限定版とSACD-SHM仕様の3種類が同時リリースされる。ジャケットの写真がすべて違い、いずれもが欲しくなる。全部買っても投票券は着いてこないようで、残念(?)。
真夏の東京TUCの入り口には開場前から行列ができた。
開場時間には60人を超えていたろう。夏の熱気を、更に吹き飛ばす勢いだ。ファーストとセカンドの2ステージが完売して、サード・セットが急きょ追加発売されたほどの人気である。
まずはバーボン・ウイスキーでのどを潤す。
角にピアノを置いて、客席のスペースを目一杯とったレイアウトで、座席はどんどん埋まっていく。
開園予定の15時30分になっても、受付の行列が途切れず、開演が遅れる。もう1杯飲もうか。15時50分過ぎ、会場が暗くなって3人が登場。山中さんは、黒に青の縁どりが印象的なワンピースで、短めの髪の毛にぴったりだ。
メンバーは、ピアノの山中千尋さんのほか、東保光(b)、岡田佳大(ds)。演奏したのは以下の通り。
【ファースト・セット】
1、Outside By The Swing
2、Take Me In Your Arms
3、Rain、Rain And Rain
4、Close To You
5、Can't Take My Eyes Off Of You
6、In A Mellow Tone
7、w.w.w.
8、Impulsive
【セカンド・セット】
9、Beverly
10、Antonio's Joke
11、Sing、Sing、Sing
12、Rain、Rain And Rain
13、Soul Seaching
14、So Long
【サード・セット】
15、Living Without Friday
16、Giant Steps
17、Take Five
18、Hackensack
19、Taxi
20、Liebesleid
(アンコール)
21、2:30 Rag
22、Yagibushi
暗めの照明から浮かび上がる山中さんのピアノに最初から圧倒される。力強い演奏で、まずはウォームアップか。
新しいアルバム・タイトル『Reminiscence(レミニセンス)』の意味について、「レミニセンスは回想録という意味で、会社は(デビュー)10周年を振り返ってだと思っていますが、今年、日本にあった出来事を記憶するという意味もこめています」とのこと。
6月30日に米ニューヨークのジャズ・クラブIridiumでのライブを収録したDVDが特典としてつく「限定盤」もある。
10月には、そのライブを収録したDVDが発売されるという。山中さんのDVDは、大阪で収録された澤野工房の『Leaning Forward』、東京で収録されたユニバーサルの『Live In Tokyo』に続く3作目となる。大阪・東京・ニューヨークとどんどん収録地がメジャー化していく。次は、経済発展の北京か上海かだろうか。
2は、ユタ・ヒップで有名な曲。いいなあ。ベースも、アグレッシブにうたう。ピアノ・ソロも熱演で、ドラムスも爆発する。
3は、新アルバムの冒頭に収録されたオリジナルだ。優しさと哀愁と諦念と深い思いのこもるテーマがうれしいオリジナルで、山中さんらしく、更に優しくしたい気持ちになれる曲である。
春ツアーを回ったトリオだが、新曲は初めて。演奏を始めながらも躊躇する山中さんを、ドラムスがゴーをかけて、音楽を前にすすめる。山中さんらしい美しいテーマで、涙があふれてくる。魅惑のピアノ・ソロ。そして、一転した先はガンガンと駆け抜ける。
4は、バート・バカラックの曲で、邦題は「遥かなる影」。新アルバム収録曲だ。
小技の効いたテーマが、可愛いのである。カーペンターズのアルバムが流行ったのを覚えている。ワクワクするアレンジ。ベース・ソロはしっくり、ピアノ・ソロは華麗だ。そして、素敵な終わり方に、また感心。
5は「おばかな曲」とのこと。聞き慣れたヒット曲で、邦題は「君の瞳に恋してる」である。素晴らしいテーマのアレンジで嬉しくなる。新アルバムにはロシアの作曲家スクリャービンのフレーズの入ったバージョンが収録されているという。
山中さんは、メロディーの魔術師である。それぞれのフレーズの違った側面、表情を浮かび上がらせるくれるのだ。いいなあ、ピアノ・ソロ。
テーマが小気味よく、ソロは駆け抜ける。6は、聞き慣れた曲だが、どうしてどうして、元気の良いメローである。しっかりしている。7の構築的なテーマを嬉しく聴いた。ベース・ソロでは、目をつぶってうたう、踊る。ピアノももちろんいい。打ち出されるピアノの音が心から離れないのだ。グルーヴ感あふれるソロで、ご機嫌で、吠えたくなるくらい。
8は、ピアノがテーマを投げ掛け、ベースが受け止める。ピアノ・ソロでは、いろいろなフレーズが引用され、交わる。ドラムスもうねる。メンバーを紹介して、17時18分、ファースト・セットが終了。8曲、1時間半ちかい演奏で、アンコールはなし。
休憩中も山中さんは、会場で即売されているCDにサインをするのに大忙し。お疲れさまです。
客席は一部が入れ替わって、ざわつく。冷えた白ワインがうまい。開演予定を少し過ぎた18時5分、暗転し。3人が登場。大きな拍手である。
5月にアメリカのDeccaレーベルから『Forever Begins』が発売されたことを報告し、「デッカは貴重なクラシックの音源をもっているレーベルで、嬉しいです」。7月のイタリア・ツアーでは、演奏の後の宴会が辛かったとのこと。イタリア自慢、アメリカ自慢などなど。日本よりイラクが安全という説には腹が立ったらしい。
9は、デビューアルバム『Living Without Friday』の冒頭曲。嬉しいメロディで、続くベース・ソロがいい。もちろん、力の入ったピアノ・ソロ。激しく思い、テーマが素晴らしい。10も大好きな曲。ベース・ソロが小気味よく。いいなあ、この曲。11は、「Saturday In The Park」で始まる御馴染のスタンダード。ぐいぐい引っ張られてキャラバンも交じる。ご機嫌なピアノだ。3人が燃え上がるよう。
12は、「今までにない、やったことのない曲」ということで始まる。ファースト・セットの演奏から既に進化している。冒頭のドラムスが入るときから、ピアノの奏でるメロディーがいい。ベース・ソロも力が入って、ピアノとドラムスが支える。それに、ドラムスもノリノリだ。13は、ピアニスト、Horace Silverの曲で、例によってノリノリである。いいなあ。Horace Silverのアルバムをすぐに聞き直したくなる。
14は、「ジャズ批評」でメロディ大賞を取っただけに、シンプルで素敵なメロディーだ。ベースがソロをタトタト弾く。右手のうたうピアノ・ソロが素晴らしい。繰りされるフレーズ・カラーに聴き入ってします。しかし、どうしてこうも激しくなっていくのか。メンバーを紹介して、19時21分。
追加公演となったサード・セットを前にした休憩は少し長めで、人も結構入れ替わる。とは言え、3セットを通しで予約した人も多い。こんどは、赤ワインをいただく。イタリアの赤で、うまい。
20時35分、3人が登場する。パチパチパチパチ!
15は、ライブの冒頭で、「サウンド・チェック」用として演奏されることの多い曲。今日のライブも3セット目となり、仕切り直した感じがする。
何かを思わせ、感じさせるイントロだが、すぐにゴーとなる。ベースが弦を弾いていい音を鳴らす。暴発トリオ。ドラムス・ソロがすごい。最初の開演から5時間近くが経っているのに、すごいの一言である。
16は、大きくうねって始まる。期待感が高まる展開だ。ベース・ソロを聴き、3人の激しい前進を聴く。17は、譜面も届いて東保さんも演奏できるようになり、順番を入れ替えて演奏開始。雄大なサウンドに仕上がった。18は、モンクのメロディーが心地よく、はつらつとしたベース・ソロがいい。
19は、御馴染の曲。ベース・ソロが物悲しい。20はピアノがテーマをきちんと演奏すると、ベースが受け止めてうたう。22時、で終了。
拍手は鳴り止まず、アンコールが始まる。CD発売の告知などのあと、21に入る。最後の22も激しくて、いえーっ!である。22時15分、終了。
終演後もサイン会があり、行列ができる。お疲れさまである。
そして、夏の夜は長いのだ。
