iMacが登場した1998年の衝撃
米アップルの創業者の一人、スティーブ・ジョブズが、2011年10月5日、亡くなった。
一方的に礼賛もしないし、必要以上に貶めるつもりもない。倒産寸前だったアップル・コンピュータを時価総額で世界一位を争うアップルにした業績は卓越したものだし、「公式伝記」でも散見される醜悪な部分も含めて、すべてがスティーブである。
初代iMacが、1998年に登場したとき、「パソコン批評」に同機のレビューを書いた。懐かしい当時の記録である。
iMacが登場した
アップル・コンピュータの創業者の一人、スティーブ・ジョブズが「hello(again)」と画面に表示させ大々的に発表したiMac(あいまっく)が、日本でも8月29日に発売された。アメリカでの発売が8月15日だったことを考えると、2週間という驚異的なスピードで日本で発売された。前後の大々的な宣伝と重なって、当日秋葉原などのパソコンショップには行列ができ、ほとんどのメディアで好意的に報道された。
アップルがコンシューマ市場に再挑戦する戦略的な新機種だが、その使い心地を検証してみた。
ところで、「コンシューマ」とは誰のことだろうか? 家庭向けの初心者に優しいコンピュータということなら、かつての「Performa」シリーズとの違いは何なのだろうか?
基本的なスペックは表を見てほしい。デスクトップタイプのG3マシンに匹敵する性能である。これは、かつての「Performa」が一昔前の性能の機械にソフトをたっぷりとつけ、安く売るスタイルからは変化している。付属する市販ソフトもClaris Worksなど数種類だ。一方で価格はかなり安い。この点は、評価できるポイントだ。
今までのほとんどのマッキントッシュについていたシリアルポートとSCSIポートは無くなった。またフロッピーディスクドライブも内蔵しない。代わりにUSBポートが二つついていて、アップルはモダンI/Oとが呼んでいる。マックにとって新しい技術が、コンシューマ向けにまず投入されたことは特筆に値しよう。
ただ、新規のユーザーのことを考えれば、今後の普及が見込まれるポートを導入するのは結構な話だが、今までの資産が生かせないとするとどうだろうか。
デザインは、白と青の半透明のプラスチックを使った丸みを帯びたデザインで、確かに「かわいい」。キーボードやマウスも新設計で、遊び心に満ちている。一方で、曲線を使った植物的なデザインは、好き嫌いが分かれるところだ。
ターゲットのひとつであるコンピュータに興味のない人たちへ強い印象を与えることをねらったのだろう。外箱の派手なオレンジ色も印象的で、マニュアル類を入れた内箱もオレンジ色だ。
リンゴマークも6色でなく一色になり、おまけで付いてくるロゴのシールも白一色になっている。
セットアップする
テレビで放映されたCMほどではないが、立ち上げるまでの手順は簡単だ。半透明の素材でシールドされた電源ケーブルを差し込み、右手横のケーブルドアを開け、付属するUSBキーボードとマウスを接続すればいい。あとは、モデムかイーサーネットのネットワークにつないで起動する。普通の起動音がする。
本体に付属するマニュアルは、日本語入力とトラブル克服ハンドブックなどだけで、一般的な使用方法は、デスクトップにある「MacOSインフォセンター」をダブルクリックして、ブラウザを使って調べることになる。iMac固有の情報も網羅している。マックの基本動作だけでなく、カバーを外してメモリを増設する方法も図解されている。ユーザー登録もデスクトップにある「ユーザ登録」を使って、インターネット経由で行える。
ただ、こうした仕組みはある程度コンピュータの使い方になれた人にとっては、便利で特に困らないのだろうが、はじめて家にコンピュータを買った人にとって便利かどうかは疑問だ。分厚く、呼んでも意味不明なマニュアルは不要だが、基本操作は、はじめにゆっくりと紙で読みたいものだ。
システムフォルダには、今までのマッキントッシュになかったファイルがある。1.8MBの「MacOS ROM」だ。これまでは、マザーボード上にあるMacOS専用のROMを使って起動し、基本的なツールボックスルーチンもこのROMに納められていた。ところが、iMacでは、起動するためだけの新しいROMがマザーボード上にある。起動時に最小限の起動プロセスをそのROMから行った後、ハードディスク上の「MacOS ROM」ファイルを読み込んで、最終的にMacOSを立ち上げている。「ROM in RAM」という方式だ。
これは以前IBMなどと共同で開発していたものの商品化されなかった、PowerPCを使ったパソコンのための規格、CHRP(チャープ)の開発で生まれた技術を利用している。そのためか「MacOS ROM」のファイルタイプは「chrp」だ。
しかし、「ROM in RAM」のため、システムを3MB消費している。初期値は仮想メモリを33MBに設定されているが、そのうち14.2MB程度をシステムが消費している。残りは、20MB以下だ。最近の巨大化するアプリケーションを考えると、快適な環境を作るには、メモリの増設は必須であろう。
立ち上がってしまえば、見慣れたMacOSのデスクトップだ。見た目で分かる違いは、デスクトップパターンに、iMacの青にちなんだ「ボンダイ」などが追加されている程度だ。
OSは、販売されているMacOS8.1よりも、いくつかの点がバージョン・アップしている。インターネットのプロバイダーに接続するために必要なPPP用のコントロールパネルが、リモートアクセスに統合されたり、システムの状態を記録するシステム・プロフィールのインターフェイスが変わり、USB機器などの細かい点も記録できるようになった。ハードディスク修復ユーティリティのDisk First Aidは、起動ディスクも修復できるようになった。
付属のソフトを使ってみれば
ブラウザには、Netscape Navigator 4.04とマイクロソフトのInternet Explorerローラ4.01がインストールされ、メーラーは同じくマイクロソフトのOutlook Express4.01とPostPet1.1がインストールされている。CyberDogやClarisMailLiteは付いていない。ちなみにHyperCard Playerは、インストールCD-ROMには入っているが、最初はインストールされていない。
統合ソフトとしては、Claris Works4.0v3がインストールされている。その他にもファックスソフトのFAX stf5.0や宛名職人5、Kai's PowerSoapSE版などが付いてくる。
ただ、クラリス・ワークスのバージョンが古く、MacOS8.1で使用するとメニュー項目の右端が白く抜けてしまう。アップル社のホームページから4.0v4へのアップデートをインストールすればいいのだが、なぜ最初からインストールしておかないのか疑問だ。インストールCD-ROMにもアップデートは入っていない。
しばらく使っていても、処理速度に、まったくストレスを感じない。マイクロソフトのワード98でさえも、許せる範囲の遅さだ。
アップデートとリストア
また、アップル社からは、すでにいくつかのアップデートが公開されている。モデムとUSB、CD-ROMドライブに関するものだ。
iMacモデムアップデートは、通信速度が極端に低下するトラブルに対処するもので、内蔵モデム用のの13KBのスクリプトファイルだ。USBでのトラブルを解消するiMacアップデート1.0は、1.8MBの大きなファイルで、なんとMacOS ROMそのものを入れ替えてしまう。
iMacのCD-ROMドライブは、PowerBookG3シリーズに使われているものと同じタイプだがかなりうるさい。ところが、時折、静かになるので不思議に思っていた。日本のアップル社のサイトには二つのアップデートしか無いが(10月3日現在)、アメリカのアップル社サポートページにiMac CD Firmware Update1.0を発見した。早速インストールすると確かに静かになる。CD-ROMの表面の印刷のアンバランスによって、バイブレーションを起こしているとのこと。ただ、アップデートをかけても、CD-ROMドライブの音は気になる。すぐ両脇にSRSサラウンドのスピーカーがあり、その音質も自慢だったはずで残念だ。
さて、iMacにはインストールCD-ROMとは別に、リストア用のCD-ROMがついてくる。これは、いざというとき、ハードディスクを購入時と全く同じ状態に戻すためのものだ。今までのインストールCD-ROMでも同様のことは可能だが、初心者にはこちらの方がわかりやすいだろう。
このように肝心なところで、こういくつものアップデートが必要となると、初心者は困るのではないだろうか。発売されて間もない初期不良的なアップデートとは言え、リストアした上に、さらにアップデートが必要になる。外部のバックアップ用のドライブがまだ整っていない現状では、改めてダウンロードするしか無いわけで困りものだ。
ちなみに、フロッピードライブがないことにあわせてか、起動時に起動ディスクが見つからない時に表示されるアイコンが変わった。今までは、フロッピーディスク・アイコンに?印だったが、iMacでは、立体的なフォルダアイコンに?印とMacOSロゴが点滅する。
フリーズしたときの強制再起動も、キーボードから操作できないことが多くなり、ケーブルドアの中にある小さなボタンをクリップなどで押す必要がある。その下の小さなボタンを押すとインタラプト・ウィンドウが表示される。ソフトウェア開発時にデバッガなどで使用するのだが、最近は通常全く使うことはない。
USBでプリンタを使ってみる
アップル社が今までのシリアルポートとの互換性を捨てて導入したUSBポートだが、まだ対応した機器が少ない。いくつものメーカーが、iMac対応の機器を発表しているので、今後は選択肢も増えるだろう。注目の松下寿電子が発売するフロッピーディスク互換のSuperDiskの発売は延期され、10月中旬とアナウンスされている。この号が発売になる頃には店頭に並んでいるかもしれない。
今回は、iMac対応を明記してあるエプソンのUSB変換ケーブル、PRCB8を使って、対応プリンターのPM-750Cを使用した。早速、本体のUSBとプリンターを繋いでみる。すると、名称不明なデバイスが接続されました、ドライバをインストールしてください、との旨、ダイアログが表示された。きちんと新しく接続された機器を認識しているわけで、さすがである。
ドライバーを付属のCD-ROMからインストールする。同封されている注意書きによれば、iMacアップデート1.0をインストールした方がよいと書いてある。
セレクタからプリンタを選択すると、右側のボックスに「USBポート」が表示される。後は、通常の印刷と同じで問題なし。また、USBハブとしての機能も持つキーボードのUSBポートにプリンタを繋いでも全く問題なかった。
今度は、DOS/V、98対応をうたっているArvel社の4ポートUSBハブを本体に差し、その先にプリンターを繋いでみる。これもUSB経由で電源も供給され、印刷も問題なし。さらに、キーボードに4ポートハブを繋ぎ、その先にプリンターをつないでも印刷できた。いずれも電源を入れたまま、ケーブルの抜き差しをしているが何のトラブルもない。
販売店の絞り込み
iMacはすべてのマック販売店で売られているわけではない。アップル社は、iMacをコンシューマ市場で展開するにあたって、「提案型の販売(ソリューションセールス)」ができる店と提携していく方針を打ち出し、楽器専門店や大学生協と提携した。もちろん、大型パソコン店もそのリストに含まれているが、秋葉原などの安売り店や通販専門店などは含まれていない。
以前、値下げ競争に巻き込まれたことへの反省と、在庫管理の徹底のために直販の体制が取れるところだけに絞ったようだが、通信販売でしかマックを買うことのできないユーザーも多いはずだ。
とは言っても、アメリカでは1299ドルのiMacが、円安の中、178000円で売られている。単純にわり算すると、1ドルが137円で、ほとんど現在の円相場と変わらない。
細かい問題点
キーボード裏のスタンドのヒンジが固く、高さを調節しようとして、壊してしまいそうで不安になる。何度か動かしてみても変化はない。製品によってばらつきがあるようだ。また、マウスも今までの純正マウスより薄くて小さいためか、完全に握りしめてしまい、慣れないと使いにくい。手の大きなアメリカ人は大変だろう。
また、ビスフェノールAという環境ホルモンの一種が製造段階で使われている「ポリカーボネート」をiMacに使っていることから、未来を見据えた機械としては失格だと、批判する声もある。
また、なぜかハードディスクの最上位の階層にインストールのログが残っている。日本語用のシステムをインストールしたときのログだが、今までの製品では見たことはなかった。将来、UNIXをベースにしたOSを導入するにあたっての事前措置なのかと勘ぐってしまう。ただ、こういったユーザーが基本的に気にすることのないものは、見えないように隠してしまうのが、マックの良いところだったはずで、なぜ残っているのかが疑問だ。
また、iMacにはモデムポートやプリンタポートといったシリアルポートはない。ところが、セレクタでアップル純正のプリンタドライバのうち、ImageWriter(使っている人は少ないだろうが)だと、どちらかのポートが選べてしまう。もちろん、印刷しようとしてもエラーがでるだけだが。ColorStyleWriter2500などを選ぶと、(なし)と表示されるのだが。もう少し気を配って欲しかった。
iMacは欲しくなる?
発売当初は、各ショップで品切れが多かったが、最近ではかなり見かけるようになった。販売店の絞り込みもあって、欲しいときに買えないことの多かったアップル社にしては、まずは順調な出足であろうか。
一方、早速iMacの後継機の噂が出回っている。しかし、長く売っていこうというコンセプトの商品のはずだ。まだ、登場して数ヶ月であり、かつてのように、次々と変わり映えのしない新製品を投入し、在庫の管理と生産の調整が混乱するといったアップル社の悪い癖が出ないことを祈っている。これで失敗すると本当に取り返しがつかないのかもしれないのだから。
伊藤初雄(いとう・はつお)
1968年生まれ、東京都在住。最近、NewtonMessagePad130からPalmIIIに買い換えた。小さくて速くて便利だが、何か物足りない気がする。
